GWC2007 企画展 時雨-Shigure-」

 時雨辰平、モデラー・原型師。
 私たち(GWC実行委員会)の知る限りでは、フィギュア原型師としてキャリア約30年にして、現役最高齢の(大)先輩。

 本企画は、氏の極初期作品を中心にその仕事と当時の話をまとめ『ガレージキット/アダルトフィギュア』黎明期の一端をここに展示します。

本項の内容は、GWC-act4内で開いた
企画展の展示パネルの内容を
ほぼ原文のまま掲載しております。
現状で新事実があった場合でも加筆修正がされていない事象もあります。ご了承下さい
(2009.06/17記)
■『ADVEN(アドベン)』

 氏が原型を始めたきっかけは、1984年頃(ハッキリとした年代は不明)、当時「新大阪」に店を構えていた模型店「ADVEN」に客として出入りを始めていた事だったという。

 すでに、海洋堂・ゼネラルプロダクツ・ボークスなどから、現在のガレージキットと同形態での製品は市場に数多く出回っていた。
 当時のガレージキットは、SFや怪獣が全盛。アニメキャラのフィギュアも既に確立されたジャンルとして存在していた。

 しかし、今に言われる「美少女フィギュア※1」という言葉はまだ確認されず、「エロフィギュア」といわれるスタイルも、あまり一般的とは言えない状況だったようだ。

 そんな中で、ADVENの女性ヌードを題材とし、しかもSMを扱ったレジンキャスト製キットは、当時国内では、かなり目新しい存在だったようで、連日、全国から通販の申込みがあったという。
 当時の同社原型は、主流が1/12スケール。原型製作自体も数名がかりで、頭部・手足・胴部、或いは全身を製作されたものを組み替えてバリエーション展開されていた。
 また、そういった原型製作のノウハウはそのまま製品として活かされ、当時のキットは、パーツの組み合わせで数種のポーズ選択が可能なアッセンブリーフリー方式という内容で活かされ、今日のような「フィギュア=原型師の作品」ではなく、まだまだ「模型=素材」としての位置づけであった当時のガレージキット市場をうかがわせる。

※1/'84年11月刊の模型情報別冊でアニメキャラを扱う「プリティ・フィギュア」という冊子が発行されるがその言葉自体は定着しなかったようだ。
 筆者の記憶では、一部では「ロリコンフィギュア」などと呼称され、「リアル系ヌードフィギュア」とは棲み分けが明確であったと記憶している。
 また、お気に入りのアニメフィギュアを裸に剥いた状態でスクラッチしたものを「ビョーキフィギュア」と呼称することも。
 今で言う「魔改造」の走りにあたるのだろう。

PHOTO:1/HJ誌1984.年2月号ADVEN広告より
■WF〜フィギュアの台頭〜アカギ屋

 そして、シーンは1985年1月第1回ワンダーフェスティバル開催を迎える(※2)。
 その頃には、時雨氏は創作活動の場をADVEN以外に拡げ、サラリーマンを続けながら数社の原型をこなす日々を送っていたという。
 1992年初夏、アカギ屋オープン。同社社長と出会い嗜好の一致を見出した氏は、正に『水を得た魚』の如く自分の世界観を表現し続ける。

 2000年以降は、某ホビーショップより版権物の以来が集中。月1体ペースで20作品以上もこなしていたという。
 もっとも、そのバイタリティと「表現する事」への情熱(或いは執着?)があるからこそ、現在でも現役で活動しておられるのは想像に難くない。

※2/'85年1月東京都立産業貿易センターで
第1回ワンダーフェスティバル開催。
 ガレージキットは確実に模型業界やホビーシーンの一角を担い、またその位置を確立する。またそれまでSF・怪獣が中心だったガレージキット業界に、「オリジナル・フィギュアキット」すなわちエロティクな表現(SF小説の挿絵や神話を題材とし、ファンタジー系と称する事も多かったようだ)を、公然と取り入れた作品の台頭が目立ち始める。
 そしてその流れは拡大の途をたどり、現在にほぼ直結する事となる。

PHOTO:2・3/

(左)時雨氏が考証監修した冊子「ADULT SEXY FANTASY」('87/2)。氏は発行元のK・K BEAT3のメンバーでもある。

(右)同じく「Collection」と題されたカタログ兼用の冊子。

「Collection」から

大人のホビーとしてTV(11PM)メディアや一般雑誌(ブルータス、ペントハウス、ザ・ベスト、写真時代、ビジネスジャンプ、プレイボーイ)などの媒体で取り上げられる事も多かった事が紹介されている。

■今・・・

 現在は、アカギ屋にて「THEBONDAGE CLUBシリーズ」・「THE BONDAGECLUB−炉シリーズ/呂万太郎名義」(※3)を展開中。
 フィギュア造型もさることながら、毎回付属される「責め具」や「拘束具」「SEXマシーン」、果ては「跳び箱」まで。それらを製作するときに用いる、金属・木・スチロール素材を適材適所に配し、造型を成立させる所に、氏の「元来模型好き」を見てとる(※4)事ができる。

 冒頭で(大)先輩。。などと茶化し気味に書いてしまったが、ご本人は至って気さくな人柄で、我々の様な若輩者にも「造型仲間」として接してくれる。
 今回の企画展開催についても過去の作品や資料、思い出話を快く披露していただいた。

※3/「THE BONDAGE CLUBシリーズ」・「THEBONDAGE CLUB−炉シリーズ(呂万太郎名義)」。共に氏のライフワークといっても良い。かつてのADVENを彷彿させる。SM系エロティックフィギュア。現在併せて40作品を越える大作。シリーズ継続中。

※4/モチロン、原型師で有る以前より、生粋のモデラーである。ジャンルを問わず作り続けたという。
 しかし、最後にこれというジャンルを挙げるなら、やはりというか(笑)、最後は鉄道に落ち着くのだという事らしい。
('07/9現在)

PHOTO:4/「炉−6」アカギ屋より発売中。今もシリーズ継続中。
■最後に

 現在のGKシーンは筆者のイメージする物、或いは「知っていた事」とはずいぶんと変化してしまったようにおもう。そこにある物、行為、道具や素材は何も変わっていないのに、である。
 今回、80年代を振り返り、調べるほどに、同好の諸氏に残して置きたい話も出てくるが、それらはまた次回の機会にしようと思う。

 ほとんど思いつき始まった企画展ではあるが、時雨氏をはじめ、記憶をたどって色々な話を聞かせてくれる多くの方々のおかげで、一応の体裁は取れたと思う。あらためて、本企画展の出展をもって感謝の意とかえさせて頂きます。


GWC2007企画展「時雨−Shigure−」
企画・構成/CHATSUNE(G-PHANTOM.jp)
企画協力 /GWC実行委員会
取材協力/ホビーショップアカギ屋
資料提供/時雨辰平・ホビーショップアカギ屋・PHANTOM PROJECT
参考図書/ホビージャパン(バックナンバー'84〜)・海洋堂クロニクル・ADULTフィギュア Vol.1 他


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